――とある休日。
私は、地元の公園にあるハイキングコースへやって来た。約20分ほどで踏破できる超初心者向けコースだ。
先月、50歳の誕生日を迎えた私は、事務職に従事している。平日は一日中座りっぱなしで仕事をしていることが多い。
若い頃からパンプスを着用しなければならない職場で働くことが多かった。先の尖ったパンプスを履き続けたことで、足は変形し、外反母趾と内反小趾を起こしている。
若い頃は、キャンプや登山を積極的に楽しんでいたというのに、いつの間にか長い距離を歩けなくなってしまった。
通勤時もつい車を使ってしまう。
アウトドアは好きだから、最近、流行りのソロキャンプにもチャレンジしてみたい。しかし、「若い頃のようにはもう歩けない」と諦めてもいる。
だから、不本意ながらグランピング施設を利用して、アウトドアな雰囲気をお手軽に楽しむ――そんな休日を送ることが多い。そして、現地には車で向かうという不精な楽しみ方をしている。
歩かなければさらに筋力が落ちて、自分がつらくなるのはわかっている。だが、ついつい楽をしてしまうのだ。
こんな毎日を続けていたらダメだ。会社で受けた定期健診でも、血圧と脂質が少し高めだから日々の生活に運動を取り入れた方が良いと注意された。
とはいえ、運動をするにしても、体力が落ちた状態でいきなり激しい運動はできない。まずは、少しずつでもいいから歩く習慣を取り戻そうと考えた。
――生活習慣を変えよう。
そう、一念発起し、今日は超初心者向けハイキングコースを訪れたのだった。健康を維持するには歩くのがいいとよく言うではないか。
しかし、歩いているうちにやはり小指が靴に当たって痛くなってきてしまった。かかとも痛む。
今日はウォーキングシューズを履いてきたというのに……。
仕方なく、公園のベンチに腰掛けて休むことにした。
すると、すぐ目の前を懐かしい姿が横切った。
――今の女性は、大学時代の友人、明子ではないか?
彼女は、サークルで一緒に登山も楽しんだ仲間だ。
「明子? ねえ、明子じゃない?」
明子は、若い頃と変わらずスタスタと歩いている。颯爽と目の前を通り過ぎて行く彼女の背に向け声を掛けると、明子はこちらを振り返り破顔した。
懐かしそうな表情を浮かべ、こちらへやって来るその足取りも軽やかで私とは大違いだ。
同い年だというのに、どうしてこんなに差がついてしまったのだろう。
「久しぶり! 元気……では、なさそうね。いったい、どうしたの? ケガでもしちゃった? それとも、慣れない靴で靴擦れを起こしたとか?」
明子は隣に腰掛けながら心配そうな顔で覗き込んで来る。
「実はね……、最近、長い距離を歩くことができなくなっていたの。これではダメだと思って、今日は簡単なハイキングコースに挑戦しようとここまでやって来たんだけど……」
「そうだったのね」
「でも、やっぱりすぐに小指やかかとが痛くなってしまって。ベンチで少し休んでいたのよ。年のせいかと思っていたんだけど、あなたは相変わらず元気そうね。大学卒業後もずっと何か運動を続けていたの?」
「ううん、全然。実はね、私もちょっと前まで歩くのがつらかったのよ」
「え? だって、今、元気そうに歩いていたじゃない?」
「秘密はこれなの」
そう言って、明子は靴と靴下を脱いで見せた。
「これは、『フットウェル』というサポーターなのよ。親指、小指、かかとの3点を支えて、足底のアーチ形成をサポートしてくれるから、バランスが取れて歩きやすくなるのよ」
「足底アーチって何?」
「私たちの足の裏には、親指から小指にかけてのアーチ、足の内側の親指からかかとにかけてのアーチ、足の外側の小指からかかとにかけてのアーチという3つのアーチがあるの。歩くときには、体重の1.5倍もの衝撃が足にかかるんですって。3つのアーチがその衝撃を和らげてくれているのよ」
靴と靴下を脱いで自分の足の裏を確認してみる。
私の足の裏には、土踏まずのへこみがあまりない。そのために、衝撃が緩和されないということなのだろうか。
「それとね、『フットウェル』には鼻緒の効果も期待できるのよ。ほら見て、ここ。鼻緒みたいに親指と人差し指の間にベルトが通っているでしょ。昔から日本人は下駄や鼻緒を履いていたじゃない? 親指と人差し指で鼻緒を掴むようにして歩く習慣があったから、自然に足指が鍛えてられたのではないか、と言われているのよ」
「なるほど、そうだったのね」
「『フットウェル』は、足裏にある“湧泉(ゆうせん)“と言うツボも刺激してくれるから着けていると気持ちがいいわよ。私も年のせいか筋力がかなり衰えていたんだけど、これを使い始めてから、歩くのが随分と楽になって……毎日、ウォーキングを続けられるようになったの。そのおかげで、落ちていた筋力も取り戻せて若い頃のように歩けるようになったのよ」
明子の説明はなるほどと思うけれど、サポーターぐらいでそんなに変わるだろうかと半信半疑だ。
明子は、先ほど脱いだ私の靴を手に取って眺めている。
「靴の足底が斜めに減っているわね。真っ直ぐ立てていないんじゃない? 重心が不安定だから、余計に足が疲れるのかもしれないわ。私もそうだったから……。足底アーチが正しく形成されれば、バランス良く立てるようになって、ちゃんと歩けるんじゃないかしら」
明子の説明はありがたい。しかし、かなり薄い素材でできているように見えるサポーターが、そこまでしっかり足底アーチの形成を助けてくれるのだろうか。
「もしよかったら、これ使ってみて。私、今はちょっと離れた所に住んでいて、今日は実家に泊まるつもりで来たから、替えにもう一組新しいものを持ってきたのよ。もしよかったら、あげるわ」
明子はバッグから新品の「フットウェル」を取り出し、私に手渡してくれた。
「え、いいの? ありがとう」
お礼を言いながら「フットウェル」を受け取り、さっそく着けてみる。
「え、予想よりも簡単に着脱できるのね。忙しい朝もこれならいいかも」
さらに、その上から靴下と靴を履いて立ってみる。
薄手の素材でできているから、重ね履きしても靴の中で窮屈さは感じられなかった。
「え? なんだか何も着けていないみたい……こんなので変わるの?」
「着けてないみたいだからいいのよ。これなら会社にも履いていけるでしょ? さあ、歩いてみて」
「確かに、パンプスの中にも履けるかも……。あれ? なんだか、さっきより背筋が真っ直ぐになった気がする……不思議」
「それは、足底アーチが正しく作られているからなのよ」
「なんだかこれなら歩けそうな気がするわ」
明子と「フットウェル」のおかげで、20分のコースを自分の足で歩き切ることができた。たった20分のコースとは言え、最近、ほとんど歩けなかった自分からすると信じられない出来事だった。
「どうもありがとう、おかげで自分の足で歩ける自信がついたわ。私も毎日、少しずつ歩いて筋力を取り戻すわね」
「そうしたら、またもう少しきついハイキングコースに一緒にチャレンジしない?」
「いいわね、じゃあ毎日、『フットウェル』を履いてウォーキングを頑張るわね」
「自分の足で昔のように歩ける」というのは、大きな喜びだ。
「フットウェル」の使用感を気に入った私は、自分でも購入し、会社に行く時もパンプスの中に履いて行くことにした。
そして、平日も休日も毎日ウォーキングに励み、少しずつ歩ける距離も長くなってきた。
――1ヶ月後。
明子に直接会ってお礼も伝えたいし、ウォーキングの成果も見てもらいたい。
そう考えた私は、3時間あまりの長めのハイキングコースに明子を誘い、一緒にチャレンジすることにした。
「空気が気持ちいいわね。そしてそれ以上に自分の足で歩けるって、本当にいいわね」
長い距離を歩けるようになったことにあらためて感動を覚える。
山頂から眺める景色の気持ち良さ――これは、自分の足でここまで歩いて来たからこそ得られるものだ。
「この前はどうもありがとう。明子のおかげで歩くのが楽になったわ。会社に行く時も『フットウェル』を身に着けているの。今は、車ではなく自分の足で歩いて通勤できるようになったわ」
「それはよかった。力になれたみたいで嬉しいわ。確かに、この前会った時より随分元気そうに見えるわね」
「そうなの。昔みたいに、登山やキャンプを明子と一緒に楽しめそう」
「そうだ、じゃあ来月はキャンプに行きましょう。テニスやスキーも学生の頃みたいに楽しめるんじゃない? これからもこうやって一緒に休日を楽しみましょうよ。あの頃みたいに、素敵な男性との出逢いもあるかもしれないわよ」
「そうだといいわね」
明子の言うように、素敵な出逢いも期待できるかもれしない。
また、生き生きとした毎日が私の人生に戻って来たような気がする。
※この物語は使用した方々の感想を元に作成したフィクションであり、作中の登場人物や団体名はすべて架空のものです。また、効果の感じ方には個人差がございます。